人気新聞社・朝日新聞の震える懐事情!平均年収1千万も「人件費削減」の舌痛めに?
朝日新聞社が2023年3月期に4億1900万円の営業損失(前年同期は95億100万円の営業利益)を計上しました。その一方で25億9200万円の純利益を出しており、業績は堅調なように見えます。
しかし、本業で稼ぐ力を表す営業利益がこのタイミングで出せなかったことは、朝日新聞社にとって大きな意味を持ちます。
なぜなら、2021年1月に100名規模の希望退職者の募集をかけ、大規模な人件費削減策を行っていたため。年収1000万円を超える文系エリートを多数抱える一流新聞社の、苦しい懐事情が浮かび上がります。
◆ポイントは「原価の内訳」
新聞社の業績は取材や編集に関連する原価が膨らむ構造をしています。朝日新聞社の2023年3月期の原価率は77.6%。前年同期は75.0%でした。7~8割は原価で占められています。
ポイントは原価の内訳です。朝日新聞社は2023年3月期の有価証券報告書をまだ提出していないため、2022年3月期の朝日新聞社単体の原価明細を見てみます。
人件費に該当する労務費が原価全体の3割程度を占めています。新聞の印刷に必要な経費が大きいようにも感じますが、実際は2割以下の水準でそれほど大きくはありません。
◆減収ペースの速さが悩みの種に
2021年3月期と2022年3月期の労務費が大きく変化していることがわかります。80億円ほど少なくなっているのです。これが希望退職者を募集した成果の一つだと考えられます。原価に占める労務費の割合は、30.8%から27.0%へと大幅に下がりました。
連結で見ても、原価は2021年3月期の2141億から、2022年3月期の2043億円へと98億円が削減されています。しかし、2023年3月期に入ると原価は2071億円へと28億円増加。その一方で、売上高は54億円減りました。
◆「100億円程度の人件費削減」は成功したのか
朝日新聞社は、原価に占める労務費の他に、販売管理費の給与手当も削減していました。この給与手当は管理業務などを行う人件費が大部分を占めます。
2021年3月期の給与手当は194億円で、2022年3月期は185億円でした。9億円削減しています。
これも希望退職者募集などの人件費削減策が寄与したものと考えられます。2022年3月期は労務費と給与手当において、100億円以上をカットできています。それでも2023年3月期は赤字となりました。減収ペースが想定していたよりも早く、リストラ効果がそれに追いついていない可能性があります。
◆販売管理費の削減効果も働かない
朝日新聞社の苦境は個別決算で見ると、もう少しわかりやすくなります。下の表は過去3期の損益計算書をまとめたもの。2021年3月期と2023年3月期は営業赤字ですが、その質が大きくことなることに注目してください。
2021年3月期は他と比較して販売管理費が大きく膨らんでいます。2023年3月期の販売管理費は2022年3月期とほとんど金額の変化がありませんが、赤字に陥っています。
朝日新聞社は2021年3月期に会社単体で17億4400万円もの退職給付費用を計上していました。これは希望退職者に支払われるものだと考えられます。2022年3月期の退職給付費用は1200万円まで縮小しています。
また、2022年3月期から販売管理費の中の販売費を大幅に削減し、700億円台から400億円台まで縮小しました。2023年も同じく400億円台で推移していますが、黒字化ができていません。やはりリストラ効果が働いておらず、恒常的な赤字体質になっているように見えます。
◆平均年収は1100万円
2022年3月期の有価証券報告書によると、朝日新聞社の本社に勤務する従業員の平均年間給与は1100万円、従業員数は3619人となっています。朝日新聞と言えば国民的なメディアの一つであり、文系の学生にとって憧れの会社の一つ。エリートが集まっています。
しかし、消費者のメディア離れは深刻。2022年3月期の朝刊は8%、夕刊は10%近いペースで減少しています。大正11年に創刊した日本最古の総合週刊誌である「週刊朝日」は2023年5月末に休刊が決まりました。2022年3月期の週刊朝日の発行部数は8万6000部で、前年同期比16.1%もの減少に見舞われていました。
朝日新聞は、全国から優秀な人材を集め、どれだけ良質なニュースを配信したとしても、それが収益に結びつかないという難局に立たされました。
◆Webメディア出身者を編集長に迎えるが…
巻き返しのカギを握っているのがWebメディア。2021年4月に朝日新聞デジタルの編集長に伊藤大地氏が就任しました。伊藤氏はBuzzFeed Japanの副編集長を務めるなど、Webメディアのプロフェッショナルです。本紙の出身者がデジタルの編集長を務めるという常識を覆しました。
それだけ、経営陣はデジタルのテコ入れが喫緊の課題だと認識しているのでしょう。しかし、就任後も朝日新聞社の減収は続いており、目覚ましい成果が出ていません。
中期的に増収へと転じることができない限り、赤字とリストラが繰り返される悲惨な結末を迎えることにもなりかねません。
<TEXT/中小企業コンサルタント 不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

(出典 news.nicovideo.jp)
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